全国脊髄損傷後疼痛患者の会 拡大運営会議に出席して

いつになく暖かい11月の土曜日、都内飯田橋にて全国脊髄損傷後疼痛患者の会 拡大運営会議に出席した。

事務局を務められている岐阜のWさんご夫妻から、ご使用されている車椅子がご縁でのお誘いであった。まるで真っさらの白紙状態で門外漢の参加であったが、そこで教えていただいたことをぜひご報告したい。

会議には、脊椎梗塞や脊椎間狭窄症など様々な当事者とその家族の方が集まっておられた。会の名簿には専門医やセラピストも名を連ねている。

脊損後疼痛(正式には脊髄障害性疼痛症候群)とは、 損傷後、麻痺部に発現する慢性的な痛みのことだという。

Wさんの話を聞いた。

9年前、家族でドライブ中の交通事故、大怪我を負ったのは助手席の夫人のMさんだった。

頸髄損傷不全四肢麻痺者となったMさんは、その後リハビリに励むが、ある日Wさんに尋ねた。

「電気毛布が故障しているんじゃないかしら?焦げ臭い気がする。」

冬の暖をとるために、Mさんは電気毛布を使用していた。Wさんがあわてて確認したが、とくに異常はない。

「熱いの。炎にあぶられているように感じるものだから、焦げ臭い匂いまでして、何度も本当に燃えてないかと聞いてしまった」

Mさんは淡々と語る。その後、症状は上肢にも及び、手が何かに触れただけで、刃物で切りつけられるような痛みを感じ、痺れ、締めつけ感、針を刺すような痛みなど、多様な痛みが全身に起こるようになった。風が痛かったり、電灯の光や大好きだった音楽までが痛みのきっかけになったりしたという。

退院して訪問リハビリが始まったが、痛みのために思うようにリハビリが進まない。

訪問リハの担当セラピストはそんなケースを聞いたことがなく、対応できずにリハビリを打ち切られてしまった。

通院先の担当医師も同様で、Mさんの訴える痛みを真剣にはとりあわなかった。気のせいだとか、精神的な問題じゃないかとか、Mさんの人格が疑われるような対応に、Mさんは非常に苦しむことになる。おまけに一般の鎮痛剤が効かない。痛みは途切れることなく続いている。

リハビリも打ち切られ、精神的に追い詰められていた頃、ご友人の紹介で、藤田保健衛生大学病院を受診した。

 

「一緒に、がんばりましょう。いろいろやることがあります」

担当の先生の言葉。

この痛みが「気のせい」でも「精神的に弱いから」でもなく、本当に起こりうるものだということが認められたのだ。ご夫妻が長い暗闇を通り抜け、初めて光が見えた瞬間だった。

その後、適切なリハビリや投薬が始まり、MさんのADLは徐々に向上していった。痛みの解消はない。しかし、痛みと共に生きる日々を送っておられるのである。

 

痛みは主観的なものだ。客観的に分析するのはきわめて難しい。

刀で切られるような・氷水に漬けられているような、剣山を踏んでいるような・バーナーで焼かれているような・キリで突き刺すような・・・という「たとえ」で言語化したものに、0~10段階の強弱をつけるしかない。しかし、今述べたような痛みを一つでも経験したことがあるだろうか?まるで地獄図の責め苦だ。疼痛患者たちはこれらのきわめて激甚な痛みを恒常的に感じているのである。

この痛みは「中枢性の神経障害性疼痛」「中枢性のニューロパシックペイン」などと呼ばれている。

いわゆる通常の痛みは「侵害受容性疼痛」という。これはつまり何かにぶつかって痛いとか、炎症や病変が出す警告信号としての痛みで、モルヒネをはじめとする鎮痛剤が効く。

鎮痛剤の効かないMさんたちの痛みは、神経系の損傷や機能異常が原因といわれている。個人差があり、神経損傷や異常の原因となる病気の種類も多岐にわたる。統一された病名はまだない。Mさんたちは、「脊髄損傷後疼痛」と呼ぶことにしている。国内での研究は一応進んでいるが、欧米の研究には大きく立ち遅れている。また一般の医療機関の認知度が非常に低く、適切な対応を受けられない患者が多いとのこと。脊損者の26%に厳しい痛みがあり、日々の生活に支障を来たしているという調査結果もある。(脊髄損傷に伴う異常疼痛に関する実態調査報告書 http://www.jscf.org/jscf/SIRYOU/ssk07/ssk07-04-03.htm )

多くの人たちが、痛みを口に出さないことで日々をしのいでいるため、患者数の把握も患者同士のつながりも今までほとんどなかったということだ。

 

これまで、車椅子や福祉用具の販売業者の一員として、明るく対話してきた人たちの中にも、痛みを隠して笑っていた方がおられたのだろうか。

 

Wさんはこれまでご自分の経験を詳細にホームページに記録してこられた。それを読んだ人からぽつぽつと反応が来て、やがて患者の会を立ち上げることになったそうだ。

会の目的も次第に明確になりつつある。

・難治性疼痛患者を2012年に施行される障害者総合福祉法の対象にすること。

・一部の抗てんかん剤など、難治性疼痛に効果のある薬品の認可

・医療用大麻や大麻製剤が導入できる体制

脊髄損傷後疼痛をふくむ重度の難治性疼痛に対する、厚労省の「慢性の痛みに関する検討会」提言に対して要望を出したり、専門医と情報交換をしたりと、その足取りは積極的だ。

要望の中の「痛みは死よりも恐ろしいことの認識」という記述が目を射る。激しい痛みのために自らの命を絶ったり、末期がんが進行するまで気づかなかったりというケースもあったそうだ。「痛みは死よりも恐ろしい暴君である」というシュバイツアー博士の言葉の引用が印象的だった。

 

「朝起きた瞬間から痛い。でも下ばかり向いてると、いいことないから普通の顔しているのよ。そうすれば声もかけてもらえるし…。でもいつも痛い。今も痛い。足はずっと燃えています。」

「事故の前に戻してくれとは思っていない。いっときでいいから、痛みから解放されてみたいの」

Mさんは言う。ちょっとはにかんだ少女のような優しい笑顔に、壮絶な痛みとの戦いの気配は微塵もない。そしてWさんは、献身的な生き方を、真面目さとユーモアが混然とした何気ない表情の下に隠し、この大きな問題の改善に向かってどこまでも探究しつづけている。

まずは一人でも多くの人に知ってもらうこと、そして同じ痛みを抱えた人たちが連携し、社会の中で孤立しないことを共に願っていきたい。

 

Wさんのブログより

 

原因不明の痛みを持った人たちの多くは、痛みを隠します。
それは、傷ついた原野の狼が、他の動物に気付かれないように、

気丈に振舞うかのようです。

これを難治性疼痛患者の「おおかみ化」

あるいは「野生化」といいます。(うそです。)


でも、多くの患者さんたちは、狼のように孤独で気高く生きています

 

脊髄損傷後疼痛、脳卒中後疼痛、CRPS、線維筋痛症など
難治性疼痛を患った患者さんの症状や願いが正しく理解され
そして正しく治療され、

患者さんが生きやすい社会となりますように。

 

全国脊髄損傷後疼痛患者の会のサイト

 

http://www006.upp.so-net.ne.jp/wakasama/sst/index.html

Wさんご夫妻のサイト

http://www006.upp.so-net.ne.jp/wakasama/index.html

    こっぱすもすとは?

    車椅子や座位保持装置にまつわる情報、仕事のなかで気づいたことなどを、こっぱ舎にかかわる人たちが折々に紹介していきます。こっぱ(木っ端)=鉋(かんな)の削りくず。転じて、取るに足らないもののこと。そんなkoppaも壮大な宇宙=kosmosの中にあり、こっぱの中にも小さな宇宙がある。そんな思いでkoppasmosと名づけました。

    検索